病態生理学
研究室紹介
病態生理学研究室のホームページ
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研究室の概要
佐藤 慎太郎 教授
粘膜は、体の内側にありながら常に外界と接し、呼吸や飲食、性行為といった生命を維持し、種を存続させる上で必要な活動を行う呼吸器、消化器、生殖器を覆っています。これらの粘膜組織では、私たちにとって有益な食餌性抗原や常在共生細菌のみならず、インフルエンザウイルスや365体育app、ノロウイルス、HIV、病原性細菌といった病原微生物などの多くの非自己成分(外来異物)と常に対峙しています。病原微生物の多くは粘膜組織を介して侵入、感染するため、私たちは粘膜面に粘膜免疫システムと呼ばれる精密かつダイナミックな免疫システムを構築することで感染防御を行っています(正の応答)。一方で、粘膜免疫システムは常在細菌や食餌性抗原など、私たちにとって有益な異物に対しては過剰な免疫応答を示さないようにする抑制性免疫応答(負の応答)を同時に示します。現在、これら粘膜免疫システムが有する正の免疫応答を応用した"食べる?吸う"ワクチンである粘膜ワクチンの開発が注目されています。
私たちの研究室、病態生理学講座では注射型のワクチンに代わる、粘膜を介して作用するワクチン、経粘膜ワクチンの実用化や、感染症に対する新しい治療法?治療薬の開発に向けた基礎的基盤研究を行っています。
研究においてポイントとなる単語?言葉
粘膜免疫、自然免疫、感染症、生体防御反応、ワクチン開発、ウイルス学、炎症性腸疾患、遺伝子改変マウス、上皮細胞、M細胞、腸内細菌叢
教育の内容
免疫系と、呼吸器、消化管に関連した疾患について講義する予定です。
研究の内容
疾患メカニズムの解明を目指した、ヒトiPS細胞を用いたin vitro解析
ここ2,30年であらゆる生命現象における個々の生体分子の役割が遺伝子改変動物(主にマウス)を用いて明らかにされてきました。この手法を用いることで、疾患メカニズムの解明が進み、治療(薬)のターゲットとなり得る分子が同定され、それらの機能を調節できるような化合物、天然物のスクリーニングが行われてきました。しかしながら、実験動物では良く作用していたにもかかわらず、実際にヒトで治験をしてみると全く効果がなく開発が中断させるということがしばしば起こります。一方で、ヒトの組織検体や、iPS細胞を含む多能性幹細胞からスタートして、これらをin vitroで3次元培養する事で、「ミニ臓器」とも言える「オルガノイド」を分化、誘導することが、特に脳?神経、肝臓を中心に可能となってきています。これらのオルガノイドや細胞を用いることで、これまでよりも生体に近い状態でin vitroにおける「ヒト」に対する研究が可能となっています。
私たちはこれまでに、大脳、中脳、腎臓、肺胞、腸管のオルガノイドをヒトiPS細胞から分化、誘導し、腸内細菌が神経疾患に及ぼす影響や、粘膜を介して感染が成立する感染症発症メカニズムの解明やその治療ターゲットの探索を行っています。
腸管上皮細胞層の構築とその応用 ― 人工粘膜関連二次リンパ組織の構築 ―
近年、腸管上皮細胞の3次元初代培養が可能となり、"正常な"腸管上皮細胞をin vitroで利用できるようになってきました。この3次元培養腸管上皮細胞を単層化して粘膜アジュバントのスクリーニングなどに応用すると共に、トランズウェルで極性を持たせた状態で上皮細胞層を構築し、病原微生物の侵入メカニズムや増殖メカニズムの解析、粘膜アジュバントのスクリーニングなどに応用したいと考えています。トランズウェルを用いた実験では、他の細胞種同士が接触しない条件下で共培養をする事も可能であり、免疫系細胞や間質系の細胞との細胞間応答も研究することができ、人工の擬似的な粘膜関連二次リンパ組織を再現できると考えています。これらの培養系を駆使することで、少しマクロな視点で生体防御反応を観察し、実際にヒトの生体で起こっているであろう現象の理解を深めていきたいと思っています。
M細胞の細胞生物学的特長と抗原取り込み作用機序の包括的理解
私たちは粘膜免疫システムの中でも、外来異物と初めて出会う場所である上皮細胞(層)、特に抗原取り込みに特化した細胞である「M細胞」に着目し、M細胞の機能発現機序の解明を通して各種感染症に対する粘膜ワクチンや粘膜アジュバントの発見、開発を目指しています。加えて、ワクチンが効きにくいとされている高齢者の粘膜免疫システムを理解することで、高齢者をターゲットとした粘膜ワクチン開発に繋げていきたいと考えています。