シンガポール海外基礎配属留学体験記

3年 廣橋尚依

   私は、海外基礎配属でシンガポールのナンヤン理工大学に6週間留学しました。配属先のSu I-Hsin先生のラボで、悪性度が特に高いとされるトリプルネガティブ乳がん研究に参加しました。実験では、患者さんまたはマウスから得た乳がん細胞をcell cultureで増やし、そこに様々な操作を加えたものをWestern BlotやFACSで解析していました。最初は失敗もしましたが、PhDのLusiaさんが丁寧に説明し毎日実験させて下さったおかげで一人で進められるようになりました。彼女は、留学したばかりで何もできない私を、かつての自分と同じだと言って常に気にかけて下さり、休日に水族館やナイトショーに一緒に出かけたのも楽しい思い出です。また、彼女自身が研究テーマの病気を過去に患っており、特別な思いで研究に取り組んでいると話してくれました。そして、いつか彼女の研究が実を結び治療法を開発できた際には、医師となった私がそれによって患者さんを救ってほしいと言われ身が引き締まる思いでした。
   ラボでは、毎週金曜日と隔週月曜日の朝にミーティングがありました。これは留学の一ヶ月前からオンラインで参加していたもので、留学後の対面でも当初はかなり苦労しました。シンガポール英語特有の発音に慣れるまで、聞き取れない部分を何度も聞き返す勇気が必要でした。一方、私が発言する時にはラボの方々が真剣に聴いて下さり、どうにか英語の討論に参加できるようになりました。留学の間、実験やミーティングが重なると朝9時から夜10時過ぎまでラボワークをする日が続いたり、実験の進み具合では週末もラボに行ったりしました。なかなか思うような結果が出ず地道に実験を繰り返すのは、体力的に厳しく大変に感じることもありましたが、初めて経験するとても刺激的な時間でした。毎日充実していて精神面でも成長できたように感じます。ラボワーク以外に、大学ではセミナーやシンポジウム等にもたくさん参加させていただき、様々な講義を聞いて学ぶことができました。
  研究以外の体験では、大学の食堂でラボの方々と雑談をしながら食べる昼食のひと時が私の大好きな時間でした。また、金曜日の夕方には研究者や学生が集って会食し自由に話を楽しむハッピーアワーというイベントにも何度か参加しました。そこで別のラボの留学生と交流した時には、彼らにとっても第二言語である英語を流暢に話し、積極的に人に関わろうとする彼らの姿勢が印象的でした。私にも話しかけてくれて仲良くなり、その後も一緒に食事をしたり、帰国後もまた会おうと約束した友人ができました。ラボ最終日には、I-Hsin先生がバーベキューパーティーを開いてくださり、楽しい夜を過ごして良い思い出ができました。
   シンガポールは、治安が良く清潔で美しい、とても暮らしやすい国でした。休日は、別のラボに留学していた西迫さんと観光地巡りに勤しみました。そんな中、街で歩いていてすれ違う人、電車やバスの乗客の人種や宗教が余りにも多様で、多民族国家であることを実感しました。外国から来た私達もそこに溶け込めて、それも居心地良さの理由の一つだった気がします。研究が長引いて夜遅くなっても安心して一人で帰途につけたのは、本当にありがたかったです。
  ただし、安全な国だからこそセキュリティーは厳しく、ビザ取得や入国の手続きも多くて複雑でした。そのせいで、私達は留学の出発日を1ヶ月ほど遅らせなければなりませんでした。今後シンガポールに留学する方には、そうした手続きを早めに始めることをお勧めします。
   私は大学入学時から留学に行きたいと願っていたので、今回のお話を聞いてすぐに参加を決意しました。実際留学してみて振り返ると、期待を遥かに超える体験ができました。私の人生で忘れられない大切な6週間になることと思います。このような素晴らしい機会を与えて下さった和歌山県立医科大学とナンヤン理工大学に深く感謝いたします。とりわけ、ナンヤン理工大学のラボに斡旋して下さった改正先生、煩雑な事務手続きを最初から最後までサポートして下さった国際交流センターの林さん、実験手技を留学前に教えて下さり快く送り出して下さった分子遺伝学教室の井上先生、片山先生、こんな私を受け入れて下さったI-Hsin先生、受け入れの事務手続き全般をして下さったGladysさんに心から感謝申し上げます。この貴重な経験を活かせるよう今後も勉学に励んでいきたいと思います。本当にありがとうございました。

ナンヤン理工大学のキャンパス

カトン地区のプラナカン建築

ラボでの実験の様子

(左上:ナンヤン理工大学のキャンパス、右上:カトン地区のプラナカン建築、下:ラボでの実験の様子)

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