教授ご挨拶 | 和歌山県立医科大学 整形外科学講座

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山田教授からのご挨拶

教授 山田 宏

和歌山県立医科大学医学部整形外科学講座のホームページにようこそ!
平成29年6月1日付で第6代主任教授を拝命した山田宏です。

当講座は昭和24年8月31日に初代教授として着任された原田基男教授により同年9月26日に開設されました。以来、第2代中川正教授、第3代嶋良宗教授、第4代玉置哲也教授、第5代吉田宗人教授と引き継がれ、その伝統と知識?技術が脈々と継承されてきました。

今われわれ講座のスタッフが、全勢力を傾注して取り組んでいる最重要課題は、健康寿命延伸です。付図1の人口ピラミッドの変化が示すように、戦後から現在に至るまで、わが国はすさまじい勢いで高齢化が進行しています。このため、人は誰でも病気と共に生きてゆく時代を迎え、健康寿命の概念が非常に重要になってきました。ここで述べる健康寿命とは、健康で日常的に介護を必要としないで自立した生活ができる生存期間のことを意味します(世界保健機構:2000年)。判りやすく言うと、平均寿命-介護=健康寿命と表現すれば理解しやすいと思います。 しかし、わが国の健康寿命は平均寿命との間に、未だ男性で9年、女性で 12 年以上の差があり、これは決して短くない期間です。人生の最後の約10年が独力では生きていけない介護生活になっているという衝撃的な事実は、超高齢社会になって明らかになった新しい課題と言えます。

このため、われわれ医療人は、国民の幸せのために総力をあげて健康寿命延伸に取り組まなければいけません。健康寿命を阻害する3大因子は、メタボリックシンドローム?認知症?ロコモティブシンドロームであることは広く知られた事実ですが、付図2の推定患者数の比較をみますと、有病率で圧倒的に群を抜いているのがロコモティブシンドロームです(厚生労働省 次期国民健康づくり運動に関する 委員提出資料 2010年)。すなわち、超高齢社会における喫緊の課題である健康寿命延伸を解決の道に導くためには、運動器疾患対策を第一義的に国としても考えざるを得ません。それゆえ、われわれ整形外科医が尽力せざるを得ないわけです。今後整形外科診療を専門とする医師に対する社会のニーズは益々増え続けていくでしょう。

図1
図1

図2
図2

ところで、高齢者の方々が腰痛や膝痛を治して、人の手を借りずに独りで生きていける身体運動機能を再獲得するために、手術は必要不可欠のものとなります。しかし、高齢者の手術には、手術を受ける年齢が高くなればなるほど、手術侵襲が大きくなればなるほど、周術期合併症や致死的合併症の発生率が高くなるという特性があります。このため、当講座では、超高齢社会のわが国において強く求められる安心?安全な低侵襲手術の研究と開発に長年取り組んできました。脊椎内視鏡下手術は、その代表的な低侵襲手術手技のひとつです。過去に於いて、脊椎脊髄手術は数多く存在しましたが、致死的合併症を招かなかった術式は存在しませんでした。しかし、われわれの脊椎内視鏡下手術?20年の歴史の中で、未だかつて手術を契機として亡くなられた方は、ひとりもいらっしゃいません。年齢や合併症リスクに関わらず、誰でも安心して手術を受けることができるというキャッチフレーズのもと、致死的合併症=0という歴史的偉業を達成した脊椎内視鏡下手術が、国民の皆様に与えたインパクトは非常に大きいものでした。現在、その安心感を頼りにして、日本中の至る所から多くの患者さん達が来院してくださいます。私は、このような低侵襲化の取り組みを脊椎だけではなく、整形外科他手術全般の領域にも広げていく所存です。超高齢社会が強く求める低侵襲手術の研究?開発を広く行い、卓越した低侵襲手術手技を有する職能集団の育成につとめ、世界を先導する低侵襲手術手技を実践することで、和歌山医大のさらなるブランド化を推し進めたいと切に願っています。

さて、この目的を達成するためには、一人でも多くの若い人材が必要になってきますが、私は常々卒後教育のあり方に危機感を抱いてきました。整形外科卒後教育の問題点としては多様化する整形外科医の価値観をあげることができます。外科医に対して高まる超高齢社会のニーズと期待に反して、訴訟リスク(手術結果に対する社会の許容度低下)?3K(過酷な労働環境を避ける風潮)?旧態依然とした指導体制(手術は見て盗め)に嫌気がさしたことに端を発した深刻化する若手医師の外科離れや勤務医不足問題は、日本の医療の死活問題にも直結する重要課題ですから、その対策は可及的早期に講じなければいけません。私は、どうすれば若者が外科医になること、外科医でありつづけることに夢や希望をもつことができるのかを考え、手術教育改革を提言させていただきます。私が思うに、現在大半の手術法は確立されていて、標準的な手術は基本的な手術の組み合わせで経験の乏しい若者でも十分完遂可能です。そこへ的確な状況判断さえ加えてやれば、安全確実に達成できます。すなわち、ちゃんと教える人間がいて、手術機会さえ与えれば誰でも手術はできるようになるというのが私のポリシーです。私の経験上、手技熟練の達成感はなにごとにも代えがたい価値があります。手術をすることの楽しみと喜びを知れば、日常の多少の苦しみやつらさには耐えることができると私は思います。

近年、医学生教育が、国際的に通用する医師を養成するために、見学型から参加型にパラダイムシフトをしたように、外科医教育も、手術は見て盗めから、指導医による手取り足取りの指導へ変わるべきです。私は、やってみせ、言って聞かせて、やらせてみて、ほめてやらねば、人は動かじの精神を講座スタッフに徹底させます。そうすれば、外科医になること、外科医であり続けることの魅力は倍増するはずと信じています。ここへ来れば立派な外科医になれると若者が夢を抱いて入局して来ることができるような講座作りを私は目指します。

整形外科医を目指す若手の先生方で、私どもの講座の目指す方向性と外科医育成のポリシーに賛同する方がおられましたら、是非当講座の門をお叩き下さい。